ウラシマソウ(浦島草):晩春の庭に咲く超個性派の性転換植物

今回の庭ノートは、晩春に我が家の庭に咲く超個性派植物、ウラシマソウ(浦島草)についてです。独特な佇まいでその場を異空間にしてしまう上、性転換植物でもあるという、なんとも魅力的な植物です。

我が家の庭に咲く花は、季節によってキャラクターが全然違います。大まかにいうと、春に咲く花はふわっとした感じ、夏に咲く花ははつらつとした感じ、秋に咲く花はしっとりとした感じ、冬に咲く花はきりっとした感じです。

春に咲く花は全体としてふわっとした感じなのですが、時期によってさらにキャラクターを細分化することができます。

極めて個人的な印象になりますが、春前半に我が家の庭に咲く花は、素人ウケする優等生です。例えば、桃、モクレン、レンギョウ、桜、菜の花、アネモネ、ハナニラ、スイセン、ムスカリ、チューリップ、パンジー、ビオラ、など。

そして、これまた極めて個人的な印象になりますが、春後半に我が家に咲く花は、玄人ウケする個性派です。

例えば、クマガイソウ。

クマガイソウの写真

クマガイソウ

例えば、エビネ。

エビネの写真

エビネ

例えば、ホウチャクソウ。

ホウチャクソウの写真

ホウチャクソウ

その中でも、ひときわ異彩を放っている超個性派がウラシマソウです。

ウラシマソウの写真

ウラシマソウ

ウラシマソウ(Arisaema urashima)は、日本原産で、サトイモ科テンナンショウ属の多年草です。肉穂花序(にくすいかじょ)の先端の付属体が細く糸状に伸びていて、その姿を、浦島太郎の釣り竿の釣り糸に見たてて、この和名がついたといわれています。

英名は「コブラ・リリー・ウラシマ(cobra lily Urashima)」です。

地下にはサトイモに似た球根があり、春になると芽を伸ばして、傘のような大きな葉を広げます。そして、仏炎苞(ぶつえんほう)といわれる黒褐色の苞を開きます。

静岡県にある私の庭では、4月下旬から5月上旬にかけて開花します。耐陰性が強く、乾燥を嫌うため、木の陰など、少し薄暗いところに生えています。

子どもの頃、庭で遊んでいて、偶然このウラシマソウを見つけてしまったときの驚きといったらありません。出会ってはいけないものに出会ってしまったというか、見てはいけないものを見てしまったというか、何か異質なものが存在していてそこだけ時空がゆがむというか。

しかも、こんな集団に出くわしてしまったら「うわぁぁぁどーしよー」って感じです。

ウラシマソウの群生の写真

ウラシマソウの群生

しかもこのウラシマソウ、性転換するんです!

ウラシマソウなどのテンナンショウ属の植物は、一般に性転換することで知られています。性転換は、成長や栄養の状態によって起こり、小型の個体は雄性となり、大型の個体は雄性から雌性に転換していきます。

ウラシマソウの雌性と雄性の写真

ウラシマソウの雌性と雄性

黒褐色の仏炎苞は一見花のように見えますが、本来の花はこの仏炎苞の中の付属体の下についています。

ウラシマソウに中を見せてもらいました。

ウラシマソウの雄花と雌花の写真

ウラシマソウの雄花と雌花

上の写真の左が雄性、右が雌性です。小型の個体では雄性となって、仏炎苞の内部の内穂花序に雄花群を形成します。大型の個体では雌性となって、肉穂花序に雌花群を形成します。

雄花から雌花への花粉の受粉はキノコバエの仲間によって行われます。キノコバエは、雄性の仏炎苞の開口部から進入し、雄花群の花粉を体につけて、仏炎苞の下にある隙間から脱出します。

しかし、雌性の仏炎苞には脱出できる隙間がありません。開口部から進入したキノコバエは、出口を探して雌花群をうろついている間に受粉させられ、脱出できずに死んでしまうこともあるそうです。

ウラシマソウの付属体が細長く糸状に伸びたもの(浦島太郎の釣り竿の釣り糸)については、なぜこのような構造になっているのか不明だそうですが、一説によると、先端が地面や草などに接していて、これをたどって虫が仏炎苞の中に入ってくるのではないかといわれています。

だとしたら、これは本当に釣り糸だということになります!