投稿者「田中安良里」のアーカイブ

海水から塩を作る!駿河湾 土肥沖で汲んだ海水を煮つめて塩とにがりを採る

今回の庭ノートは、駿河湾 土肥沖から汲んできた海水を煮つめて、にがりを作ったお話です。

戸田塩(へだしお)って知っていらっしゃいますか?

戸田(へだ)西伊豆にある地名です。現在は沼津市に合併されていますが、昔は静岡県田方郡戸田村でした。西伊豆はどこも素晴らしい所ばかりですが、戸田は子供のころから毎年夏に訪れていることもあって、私にとって非常に思い入れの深い場所です。

特に駿河湾戸田港を隔てている御浜岬(みはまみさき)がすばらしく、この岬の港側が砂地で海水浴場になっています。岬には松林が広がっていますが、岬の駿河湾側は、湾内とはいえ外海的な雰囲気で、全く違った海の様子が味わえます。なんとも絶妙なサイズの海水浴場で、桃源郷的な何かを持っている場所です。

そして、戸田には、海水を釜で沸かして塩を採るという伝統的な方法で製塩した戸田塩(へだしお)があります!とってもおいしい塩です!

戸田塩の会のホームページ

この戸田塩の作業小屋の塩焚き釜を見て、自分で塩を作ってみたくなったという次第です。

海水には、塩(塩化ナトリウム)のほかに、塩化マグネシウム硫酸マグネシウム硫酸カルシウム塩化カリウムなどが含まれています。塩を作るには、塩化ナトリウムを、それ以外の成分や水と分ければいいということになります。

塩の作り方は、下記の本を参考にしました。

高梨浩樹 編、沢田としき 絵(2006)『塩の絵本』農文協.

1.海水を汲んでゴミや砂をとりのぞく

まずは海水を調達するところからです。その辺の海岸で汲んで来ようと思いましたが、『塩の絵本』には「市街地近くの汚れた湾内や河口付近は、さけよう。防波堤の外側や岩場など、できるだけ、水のきれいな場所でくもう」とあります。

こうなったら、沖に出て海水を汲んでくるしかない!と思っていたところ、海水を欲しがっていることを知った私のヨット師匠2人が、伊豆の土肥沖でとてもきれいな海水を汲んできてくれました!

しかも証拠写真まで撮ってきてくれました!感謝です!

駿河湾を走るヨットから望む富士山の写真

駿河湾を走るヨットから望む富士山

駿河湾の海水を汲む様子の動画

駿河湾の海水を汲む様子の写真

駿河湾の海水を汲む様子

今回は海水4リットルを使います。

駿河湾の海水の写真

駿河湾の海水

まずは、海水をろ過してゴミや砂をとりのぞきますが、さすがヨットで土肥沖まで行って汲んできてもらった海水です!とてもきれいで、目で確認できるようなゴミや砂は全くありません!

一緒に作業をしていた妹と、「これ、きれいすぎて漉す必要なくない?」と話していたところ、ろ紙に5ミリくらいの物体が引っかかりました。

なんと、クラゲの赤ちゃんでした!

海水をろ過してゴミや砂をとりのぞく」ではなく「海水をろ過してクラゲをとりのぞく」という工程になりました。

海水をろ過してクラゲをとりのぞく写真

海水をろ過してクラゲをとりのぞく

このクラゲの赤ちゃんは小さな水槽に移して飼うことにしました。救出作業に思いがけない時間をとられました。

2.荒炊きをして石こう(硫酸カルシウム)をとりのぞく

次に、海水を琺瑯の鍋に入れて、10分の1の量になるまで強火で煮つめます。今回は4リットルの海水なので、400ミリリットルになるまで煮つめます。

荒炊きの写真

荒炊き

10分の1の量まで煮つまったら、ろ過して、石こう(硫酸カルシウム)をとりのぞきます。石こうは鍋にもこびりついて、内側がざらざらになりますが、洗えばとれます。

3.本炊きをして煮つめる

石こうをとりのぞいた海水を、土鍋に移します。はじめの海水の40分の1の量になるまで煮つめます。4リットルの海水だったので、100ミリリットルになるまで煮つめます。

本炊きの写真

本炊き

煮つまって、塩の結晶が見えてきました。

煮つまって塩の結晶が見えてくる写真

煮つまって塩の結晶が見えてくる

4.脱水して塩とにがりをわける

海水が100ミリリットルになったらろ過します。ろ紙に残ったのが、下に落ちたのがにがりです。

ろ過して塩とにがりを分ける写真

ろ過して塩とにがりを分ける

をさらし布に包んでしぼり、さらににがりをとりのぞきます。

塩をさらし布に包んでしぼる写真

塩をさらし布に包んでしぼる

塩をドライヤーで乾燥させます。

塩をドライヤーで乾燥させる写真

塩をドライヤーで乾燥させる

戸田塩は、クラシック音楽をきかせながら1週間ゆっくりと水を切り、熟成させるそうです。私の塩は、母と妹と私の、しょうもないありあわせのを聞かせて乾燥させました。

5.塩ができあがる!

できあがった塩の写真

できあがった塩

4リットルの海水から80グラムの塩ができました!完成度の高い、非常に美しい塩です!

海水のろ過から塩の完成まで、所要時間は約2時間でした。

さっそく試食です!

深い!そして複雑です!なんというか、NaClじゃないです!NaCl以外の何ものかがいろいろ含まれている感じです!

おまけ:副産物のにがりで豆腐を作る

にがりは豆乳豆腐に変える凝固剤で、主成分は塩化マグネシウムです。

できあがったにがりの写真

できあがったにがり

副産物のにがり豆腐を作ってみました。にがりの濃度がわからなかったので、極めて適当な作り方です。ジップロックの耐熱容器に、無調整豆乳600ミリリットル、自作のにがり大さじ1杯を入れてかき混ぜ、ラップをして20分ほど蒸しただけです。

豆乳ににがりを入れて蒸す写真

豆乳ににがりを入れて蒸す

少しゆるめに仕上がりましたが、とてもおいしい寄せ豆腐でした!

自家製のにがりで作った寄せ豆腐の写真

自家製のにがりで作った寄せ豆腐

本当に固まることが確認できました。

金運アップ!庭に万両、千両、百両、小判草を植える

金運アップのために、お金の名前がついた植物を庭に植えています。

古くからお金にまつわる縁起木として人気が高いのは、千両万両などですが、「両」がつく植物はなんと一の位から万の位までそろっていて、万両千両百両十両一両とあります。

いずれも常緑の低木で、秋から冬にかけて赤い実がつきます。

万両(マンリョウ):ヤブコウジ科ヤブコウジ属

千両(センリョウ):センリョウ科センリョウ属

百両(ヒャクリョウ):カラタチバナ、ヤブコウジ科ヤブコウジ属

十両(ジュウリョウ):ヤブコウジ、ヤブコウジ科ヤブコウジ属

一両(イチリョウ):アリドオシ、アカネ科アリドオシ属

このうち、千両万両一両(アリドオシ)をそろえて、「千両、万両、有り通し」といった語呂合わせがあります。「千両も万両も一年中有り通し=お金に困らない」ということで、金運に恵まれますようにという縁起かつぎです。

私は「千両万両一両」ではなく、「千両万両百両」を庭に植えています。

千両の写真

千両

万両の写真

万両

百両の写真

百両

木も草も虫も休んでいる冬の寒い庭で、常緑で赤い実のついた千両万両百両を見ると、本当に豊かな気持ちになります。ウインターブルーになる方にはおすすめの植物です。千両はちょっぴり気難しくて環境を選びますが、万両は増えて困るくらい育てやすいです。

しかーし!私が最もおすすめするお金にまつわる植物は「小判草」です!

小判草の穂の写真

小判草

小判草(コバンソウ)は、5月から6月に咲く、イネ科コバンソウ属の一年草で、小判に似た形の小穂をつけます。

小さいころ、妹と「お金草(おかねそう)」と呼んでいました。ウラシマソウと並んで、発見するとドキドキする植物の一つでした。イネ科特有の哀愁があります。

小判草の群生の写真

小判草の群生

高さは10~60センチくらい、穂の大きさは1.5~2センチくらいです。穂は稔ると黄金色になります。

黄金色の小判草の穂の写真

黄金色の小判草の穂

植えたままで黄金色になりますが、青いうちに切ってドライフラワーにすると、とてもきれいな黄金色になります。下の写真は左が今年収穫したもの、右が数年前に収穫してドライフラワーにしたものです。

小判草 ドライフラワーの写真

小判草 ドライフラワー

似た植物に姫小判草(ヒメコバンソウ)があります。

姫小判草の写真

姫小判草

イネ科コバンソウ属の一年草ですが、穂の大きさや穂のつき方が小判草とは異なります。小判草の穂は1.5~2センチですが、姫小判草の穂は4ミリ程度です。

小判草と姫小判草の写真

小判草と姫小判草

小判草姫小判草とも、日本では雑草扱いです。こんなにユニークで縁起のいい植物が雑草だなんて!

小判草は増殖力がハンパなく、すぐに小判ざっくざくになります。お金もこんなスピードで増えるようにという願いを込めて、雑草などと思わずに大切に放置しています。

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天から香水をまいたような高貴な香り!柑橘の花の香りをモイストポプリで閉じ込める

5月は、新茶の季節、薫風の季節、そしてもう一つ、柑橘の花の季節です。

松尾芭蕉の俳句に、駿河路や花橘も茶の匂ひ(するがじや はなたちばなも ちゃのにおい)という句があります。

確かに、静岡は香り高い橘の花までもお茶の匂いがするくらい製茶が盛んではありますが、橘の花の香りも相当なものです。

柑橘の花は、とても高貴で甘い香りがします。

柑橘の花の写真

柑橘の花

庭では、ウンシュウミカン、アマナツ、ユズ、ハッサクなどの柑橘類の花が楽しめますが、それぞれ少しずつ香りが違います。

レモンの花は、色も少し違い、花の外側が赤紫色です。

レモンの花の写真

レモンの花

庭で咲く花のうち、柑橘の花と同じくらい香りが印象的なのが、キンモクセイとロウバイです。

キンモクセイの花の写真

キンモクセイの花

ロウバイの花の写真

ロウバイの花

キンモクセイは9月末から10月初めに、ロウバイは1月中旬に咲きます。

どちらも甘い香りですが、キンモクセイの香りはふとした瞬間にふわっとやってくる感じ、ロウバイの香りは冷たい空気の中をどこからか漂ってくる感じです。

しかし、柑橘の花の香りは、やってくるというより、降ってくるという感じです。

柑橘の花の写真

柑橘の花

根角博久(2002)『NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 柑橘類』NHK出版. の5月の章に、柑橘の花について、「天から香水をまいたかのように、高貴な香りが一面に漂います。」という一節がありますが、まさにこの通りです。

柑橘類の果実の香りはなじみがあると思いますが、柑橘類の花の香りは嗅いだことがない方もいらっしゃるかもしれません。果実のような爽やかでみずみずしいリフレッシュ系の香りではありません。かぐわしいとはこういうことなのか!?という香りです!

柑橘の花の写真

柑橘の花

この香りを閉じ込めたくて、モイストポプリにしています

モイストポプリは、塩の防腐効果を利用して、花を乾燥させずにポプリにしたものです。

香りを閉じ込めるには、無水エタノールを使って香水にしたり、ホホバオイルを使って香油にしたり、蜜蝋を使って練り香水にしたり、植物を乾燥させてドライポプリにしたりといった方法があります。

しかし、私の場合、体や物や空間に香りをつけたいわけではなく、必要な時に香りを嗅ぎたいという目的なので、一番作るのが簡単で香りが長持ちするモイストポプリにしています。

モイストポプリ

<材料>

  • 粗塩
  • ガラス瓶(塩で錆びるので、蓋は金属ではないほうがよいようです。)

<作り方>

  1. 花を摘みます。
  2. ゴミを取りのぞきます。
  3. 花が濡れている場合は乾かします。
  4. 花と粗塩を、層になるように交互に入れます。
  5. 蓋をして一か月ほど寝かせます。

香りを楽しみたいときにガラス瓶の蓋を開けて嗅ぎます。

モイストポプリの写真

時間が経つと花は変色しますが、作りたては、花の色と塩の白のコントラストがきれいです。モイストポプリは花を乾燥させずに作るので、乾燥させると香りがなくなる種類の花に適しています。

モイストポプリの写真

瓶に詰めても十分いい香りではありますが、やはり、天から降ってきてこその香りです。

柑橘の花の香りを嗅いだことのない方は、機会があったらぜひ5月のみかん畑に行ってみてください!

おすすめの本

根角博久(2002)『NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 柑橘類』NHK出版.

極上の味!八十八夜に庭のチャの木で茶摘みをして煎茶を作って飲む

吹流しを設置。新緑の間を吹き抜ける初夏の風、薫風を楽しむ

ポニョの宗介の船がほしい!ポンポン蒸気船を作って、湖で走らせる

今回の庭ノートは、ポンポン蒸気船を作って、湖で走らせたお話です。

宮崎駿監督の映画「崖の上のポニョ」に出てきた「宗介のポンポン船」がほしいと思っていたのですが、そのうち購入しようと放置していたところ、プレミアがついて、どんどん値が上がり、とんでもない金額になってしまいました(2017年5月の時点で45,000円~180,436円)。思ったときに買っておけばよかったと後悔しました。

ポンポン船は、蒸気の力で「ポンポン」と音を立てながら水面を進む船です。

ブリキのおもちゃや科学実験キットとして販売もされていますが、同じ原理の船を自分で作ってみることにしました。

どうやって作ろうかと考えていたところ、父が「ポンポン蒸気船の作り方」の切り抜きを持っていることが判明。科学雑誌『Newton』の表紙裏に、日本ガイシの「家庭でできる科学実験シリーズ」というのが掲載されていますが、2002年9月号のテーマが「ポンポン蒸気船をつくろう!」だったのです。

15年前の切り抜きです!まさか使う日が来るとは!そして切り抜いたことを覚えていたとは!

この切り抜きを参考に、少しカスタマイズしてポンポン蒸気船を作りました。

ちなみに、『Newton』の表紙裏に乗っている「家庭でできる科学実験シリーズ」は、日本ガイシのホームページでも紹介されています。ポンポン蒸気船の作り方も詳しく載っています。

日本ガイシ 家庭でできる科学実験シリーズ ポンポン蒸気船をつくろう!

このポンポン蒸気船は、ボイラーと、ボイラーから伸びる2本のパイプでできていて、水を入れたボイラーを加熱すると、船が動くという仕組みです。

ボイラーの水が加熱されて蒸気になると、体積は約1700倍に膨張するそうです。急激に体積がふくらんだボイラーの蒸気は、パイプの中の水を勢いよく外へ押し出し、これが船の推進力になります。水を押し出して圧力が下がると、外の水がパイプからボイラーへ吸い込まれ、その水が加熱されて再び蒸気になって進みます。

ポンポン蒸気船を作るのに必要なものは、バルサ材、銅パイプ、アルミ缶、木片、竹ぐし、鍋料理用固形燃料、単1乾電池、はさみ、定規、カッターナイフ、のこぎり、彫刻刀、コンパス、木工用接着剤、紙やすり、輪ゴム、マッチ、スポイト、軍手です。

バルサ材を船の形に加工し、丸い穴をあけてアルミ缶をはめ込み、銅パイプを曲げてボイラー部分を作り、舵を取りつけたらできあがりです。

ポンポン蒸気船の写真

ポンポン蒸気船

いよいよ進水式です!

固形燃料をアルミ缶の中に入れ、銅パイプにスポイトで水を入れます。船を水に浮かべて固形燃料に火をつけます。しばらくすると、ボイラー部分の水が沸騰し、船が動き出します。

シンクに水を張って実験しましたが、狭くてすぐに追突してしまいました。

シンクに浮かぶポンポン蒸気船の写真

シンクに浮かぶポンポン蒸気船

もっと広い場所で実験をと思い、側溝に水をためて水路にしました!

側溝に浮かぶポンポン蒸気船

側溝に浮かぶポンポン蒸気船

船の大きさにぴったりの水路でした。

しかし、もっと壮大な場所で実験したいと思い、船を持って湖に行くことにしました!

早速実験です。

湖に浮かぶポンポン蒸気船の写真

湖に浮かぶポンポン蒸気船

火力が少し弱かったのか、大自然を前に推進力が足りず、残念ながらなかなか思うように進みませんでした。しかし、こちらの動画を見ていただけば、パイプの先からボコッボコッと蒸気が吹き出て、それによって船が推進していることがわかると思います。

湖を進むポンポン蒸気船の動画 (15秒、6MB)

快走ではありませんでしたが、蒸気機関とはこういうものなのかと体感することができ、大満足でした!

ついでに作ったソーラー船も湖に浮かべてみました。

バルサ材の上にソーラーパネルをとりつけ、太陽光でプロペラを回して進みます。

ソーラー船の写真

ソーラー船

こちらはなかなかの推進力でした!曇っているのに、太陽光とはすごいものです。

湖を進むソーラー船の写真

湖を進むソーラー船

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吹流しを設置。新緑の間を吹き抜ける初夏の風、薫風を楽しむ

今回の庭ノートは、若葉の間を吹き抜けて初夏の香りを運ぶ南風、「薫風(くんぷう)」のお話です。

私は年間4つ、心待ちにしている風があります。春一番薫風二百十日の風、そして木枯らしです。

春一番は立春から春分の間にその年に初めて吹く南寄りの強い風、薫風は新緑の間を吹きぬける初夏のさわやかな風、二百十日の風は立春から数えて210日目の台風がよく来る厄日の風、木枯らしは太平洋側地域で晩秋から初冬の間に吹く北よりの強く冷たい風、です。

庭に吹く春一番については、2017年3月5日の記事で紹介しました。

精悍な北風とチャラい南風。春一番と寒の戻りの風

5月に入り、今度は待ちに待った薫風が吹きました。

「薫風自南來 殿閣生微涼(くんぷうみなみよりきたり、でんかくびりょうをしょうず)」という禅語があります。

南から薫風が吹き、殿閣を涼しい空間にする、という意味ですが、この句を禅の世界で考えると、煩悩妄想を消し、分別執着の汚れを洗い流した、清涼そのもの=悟りの境地、を表現したものになるということです。

「薫風」の語源はこのように漢語ですが、訓読みして和語化して「風薫る」と言ったりもします。

「薫風自南來」の言葉のとおり、薫風は本当に南から来ます。

私は五色の吹流しを揚げて薫風を楽しんでいます。端午の節句とは関係なく、薫風を楽しむために揚げています。長さ1メートルの小さな吹流しで、薫風が当たるベランダのコーナーの手すりにつけています。吹流しを気持ちよく泳がせることができるのは、薫風だけのような気がします。

吹流しの写真

もう一つの楽しみ方は、お気に入りの木の北側に立って薫風を楽しむというものです。どの木を通ってくるかで、薫風の印象が少し違います。

私が一番気に入っているのは、モミジを吹き抜ける薫風と、ケヤキを吹き抜ける薫風です。

モミジを吹き抜ける薫風の写真

モミジを吹き抜ける薫風

ケヤキを吹き抜ける薫風の写真

ケヤキを吹き抜ける薫風

写真では全然分からないですよね。

動画を撮ったのですが、風の温度や湿度や雰囲気が伝わらなく、薫風の良さが全く出ていなかったので、写真だけにしました。

とても爽やかで、南から、さーっとやって来て、ふわっと上に抜ける感じです。モミジを吹き抜ける薫風のほうが、ケヤキを吹き抜ける薫風より、やや繊細な感じです。

同じ南風でも、春一番のような荒々しさや湿っぽさ、チャラい感じがありません。秋や冬の風のようなストイックさや切なさもありません。チャラすぎずストイックすぎず、年間で吹く風の中で、一番健全な感じがします。極めて個人的な印象になりますが、キャラとしては、外連味のない静岡県民みたいな感じです。

 

おすすめの本・グッズ

高橋順子(2002)『風の名前』小学館.

四季折々の美しい風の名前が載っています。風の作用やイメージを写した静止画なのに、どの写真からも風そのものを感じます。

平田精耕(1988)『禅語事典』PHP.

250の禅語の有名なことばが載っています。それぞれに解説と寸話がついています。Kindle版も出ています。

こいのぼり 五色吹流し 単品 1M 【徳永こいのぼり】

こいのぼりや五色の吹流しが一匹単位で手に入ります。長さもいろいろあります。

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ついに来た!七色の美しい鳴き声を持つ、セミの鳴きまねもできるガビチョウ(画眉鳥)

今回の庭ノートは、「ガビチョウ(画眉鳥)」が、ついに私の庭にも来たお話です!

まずは、この鳴き声をお聞きください。

ガビチョウ(画眉鳥)の鳴き声

5月に入ってから、毎朝5時にこの声で起こされています。

非常に美しい声なのですが、ほかの鳥と違ってかなりよく通る大きな声で、一度鳴き始めたら休憩することなく何分間も延々と鳴き続けます。

鳥のさえずりで目覚めるなんて幸せなことですが、ガビチョウの場合、「何!?何が起きたの!?」という感じで、若干起こされた感があります。

初めて聞く鳴き声だったので最初は何の鳥かわからず、「いったい何者なんだ!?」と思っていました。飛び立つ姿が見えたので野鳥図鑑で調べてみましたが、なかなか特定できません。鳴き声から特定しようと思いましたが、多彩すぎて調べようがありません。ついに顔を目撃して、ガビチョウと判明した次第です。

ガビチョウの写真

ガビチョウは、スズメ目チメドリ科に分類される、体長22~25センチくらいの鳥です。色は茶褐色でくちばしが黄色、目の周りとその後方に眉状に伸びた白い模様があるのが特徴です。京劇メイクのアイラインみたいです。

ガビチョウは中国南部から東南アジア北部にかけて生息していますが、日本ではペットとして輸入された個体が、かご脱けにより定着したそうです。特定外来生物に指定されているため、日本の野鳥図鑑には載っていないことが多いです。

七色と形容されるその美しい鳴き声から、中国では非常にポピュラーな飼い鳥で、日本でも古くから輸入されていたそうですが、人気がなくなってペットショップの店頭から姿を消したそうです。

日本では関東地方から分布を広げてきたようで、静岡県富士宮市にもいるという話は聞いていたのですが、私の家の周辺で見かけることはありませんでした。なので、ついに我が家に来た!という感じです。

ガビチョウの写真

ガビチョウは声がいいだけではなく、ほかの鳥の鳴きまねも上手で、ウグイス、キビタキ、オオルリ、サンコウチョウ、シジュウカラといった鳥のさえずりをまねるそうです。

ガビチョウ

私が目撃した時には、コジュケイのまねもしていました。

コジュケイのまねをしていると思われるガビチョウの動画(movファイル)

さらに、セミのツクツクボウシのまねもしていました!

ツクツクボウシのまねをしていると思われるガビチョウの動画(movファイル)

なんでセミ!?と思いますが、自分の歌のレパートリーを増やすためという説があるようです。

オスは鳴き声の優劣を競ってメスにアピールしますが、自分の歌のレパートリーが豊富ということは、それを維持できるだけの余裕があることの証明になり、そのため、ほかの生き物の鳴き声などを積極的に取り入れようとする傾向があるそうです。

あるいは、仲間とより良い関係を構築するためにレパートリーを増やしているのかもしれません。

ツクツクボウシだけでなく、ぜひ、ヒグラシのまねも習得してほしいです。

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ありえない質感!美しすぎる白い花、私の庭の四大美女

今回の庭ノートは、庭に咲く、美しすぎる白い花についてです。

私の庭には、ツツジ、シャクナゲ、コデマリ、オルレア、シャクヤク、カサブランカなど、美しい白い花がたくさん咲きます。

カサブランカの写真

カサブランカ

ほかの色の花もそれぞれ素敵ですが、白い花は特別美人が多いような気がします。

その中でも、二度見するほど美しい、私にとって特別な花があり、中国四大美女にならって、私の庭の四大美女と呼んでいます。

ちなみに、中国四大美女とは、西施王昭君貂蝉楊貴妃の四人です。

西施(春秋時代):彼女が川で洗濯をする姿に見とれて魚たちは泳ぐのを忘れてしまったと言われる沈魚美人

王昭君(漢):琵琶をかき鳴らす彼女の姿と悲しい調べに魅入られて雁が次々に落ちてきたと言われる落雁美人

貂蝉(後漢):天下を憂いて物思いに耽る姿のあまりの美しさに、月が恥じて雲に隠れてしまったと言われる閉月美人

楊貴妃(唐):彼女が後宮を散歩すると庭の花が妃の美貌と体から発する芳香に気圧されてしぼんでしまったと言われる羞花美人

「虞や虞や 汝を奈何せん」の虞美人(秦末)が入っていない!?と思いますが、三国志で有名な貂蝉を抜いて虞美人を入れることもあるそうです。

魚が泳ぐのを忘れたり、雁が落ちてきたリ、月が隠れたり、花がしぼんだり、って、すごすぎです。

でも、私の庭に咲く白い花も負けていません!この世のものとは思えない美貌です。

ありえない質感なのですが、私の写真技術ではそれがお伝えできないのが残念です。本物を見れば、絶対触りたくなります!

クチナシ

クチナシの写真

クチナシ

この人、どうしたらいいんでしょう!ため息しか出ないです。花びらが外側にカールした感じが絶妙です。初夏の嵐の前のちょっと薄暗い不安な日がよく似合います。

フヨウ

フヨウの写真

フヨウ

何なんですか、この透け感!花の中央のほんのり黄緑がかった色合いも絶妙です。花びらと花びらの重なり方も計算しつくされていて、回転してそのまま吸い込まれる感じです。

シュウメイギク

シュウメイギクの写真

シュウメイギク

可憐すぎます!肉厚な花びらと、あえて花びらの形が一枚一枚違うところが絶妙です。計算ずくの不揃い!?よく見るとパールが入っていてキラキラ光っています。

ツバキ

ツバキの写真

ツバキ

このなめらかさ、何なんでしょう!品種がわからないのですが、ほかのツバキにはない質感です。一枚一枚の花びらが繊細でしっとりしているにもかかわらず、ありえない枚数重なっていて、贅沢仕様です。

ご紹介した私の庭の四大美女の写真、ベストショットではないので、もっといい写真が撮れたら、随時差し替えようと思います。

極上の味!八十八夜に庭のチャの木で茶摘みをして煎茶を作って飲む

今回の庭ノートは、八十八夜に庭のチャの木で茶摘みをして、電子レンジとホットプレートで蒸し製煎茶を作ったら、とてつもなくおいしかったというお話です。

静岡県は、全国の茶園面積、収穫量の40%を占める、日本一の茶どころです。同じ静岡県内でも、富士・沼津、清水、本山、牧之原、川根、掛川、天竜と、地区によって製法や味にそれぞれ違いがあり、さまざまな高品質の日本茶を楽しむことができます。

富士山と茶畑の写真

私は静岡県に住んでいるため、身近にすばらしいお茶屋さんがたくさんあり、プロが作った最高においしいお茶を毎日飲んでいます。

しかし、庭にチャの木が2本あり、いったいどんな味がするのだろうと気になったので、八十八夜に自分で茶摘みをし、自家製のお茶(蒸し製煎茶)を作って飲んでみることにしました。

八十八夜は立春から数えて88日目ということです。2017年の八十八夜は5月2日です。このころは、新茶の摘みとりの時期で、八十八夜に摘んだ新茶を飲むと長生きをすると言われています。

庭のチャの木は垣根を兼ねた庭木として植えられているため、茶園でおなじみのかまぼこ型ではありません。樹高1メートルくらいの普通の木です。

一芯二葉(新芽の真ん中の芽と葉2枚)を手で摘みます。

一芯二葉の写真

生葉100gを摘みました。

チャの生葉の写真

緑茶、ウーロン茶、紅茶は、同じチャの木の葉から作られます。違いは、チャの葉を発酵させるかどうかです。全く発酵させないと緑茶、50%程度発酵させるとウーロン茶、100%発酵させると紅茶になります。

チャの生葉には酵素が含まれていて、そのままにしておくとどんどん酸化して茶色くなります。緑茶の場合、摘んだらできるだけ早く熱を加えて、酸化を止めます。これを殺青といいます。

殺青には蒸す方法と炒る方法があります。日本のほとんどのお茶は、蒸し製煎茶です。蒸気で茶葉の酵素を殺青し、もみながら乾燥して、最終的に細くもんで針状のお茶に仕上げます。これに対して、中国式の製法である釜炒り茶は表面温度300℃くらいの釜で炒って殺青します。

今回は蒸し製煎茶を作ってみることにしました。

作り方は下記の本を参考にしました。

増澤武雄(編集)、山福朱実(イラスト)(2007)『茶の絵本』農文協.

緑茶の製造工程は、大きく、殺青→揉捻→乾燥に分けられます。さらに細かい製造工程に分けられ、手揉みには非常に高度な技術が必要ですが、家庭で楽しむには、とりあえず蒸して揉んで乾燥すればいいということになります。

①殺青

チャの生葉にラップをかけて、1分30秒くらい電子レンジにかけて蒸します。

チャの生葉を電子レンジで蒸す写真

敷物の上で冷まします。

蒸した生葉の写真

120℃のホットプレートで、よく混ぜながら蒸し露と茶葉の水分の一部を飛ばします。

揉捻の写真

②揉捻

敷物の上で茶葉を揉んでは100℃~120℃のホットプレートで水分を飛ばす、を繰り返します。

軽く揉みながら乾燥

揉捻の写真

強く揉みながら乾燥

揉捻の写真

形を整えて揉みきり

揉捻の写真

③乾燥

100℃~120℃に調節したホットプレートでに和紙を敷き、茶葉を薄く広げて乾かします。

茶葉の乾燥の写真

出来上がり

揉みきりが難しく、針のようなまっすぐな形には仕上がりませんでしたので、蒸し製玉緑茶みたいな感じになりました。

茶摘みから完成まで、2時間半くらいでした。100gの生葉から25gのお茶ができました。

さっそく試飲です。

茶葉1人3g、よく沸騰させて70℃に冷ましたお湯1人60mlで、浸出時間は2分にしました。

一煎目の写真

一煎目

普通にお茶です!というより、その辺のおいしくないお茶よりおいしいというか、その辺のおいしいお茶よりおいしいです!

もっと草っぽい野性味あふれる味だと思っていたので驚きでした。自家製のお茶というものは、いい意味で「田舎のお茶」という味がしますが、田舎っぽさもなく、スノッブさもなく、何ともバランスがとれたお茶でした。

香りもよく、生臭くも焦げ臭くもありません。色もしっかり出ていますが濁りがなく美しいです。味は、まろやかであまく、玉露のようなヌメリが若干あり、ほんの少し渋みがあって、にもかかわらず爽やかです。味がしっかり出ているのにしつこくないです。新茶ならではのやさしさもあります。何より、雑味がなく、生粋のお茶という感じです。

一煎目は新茶のまろやかさが、二煎目は新茶のさわやかさが際立ちました。

二煎目の写真

二煎目

なんかすごい自画自賛になってしまいました。

技術がないのにおいしくできた秘訣は、機械ではなく手摘み手揉みでやったこと、短時間で茶摘みから飲むところまでを一気にやったこと、八十八夜にやったこと、一人で雑念なしでやったこと、庭のチャの木に対してリスペクトの心があったこと、かなと思っています。

おすすめの本

増澤武雄(編集)、山福朱実(イラスト)(2007)『茶の絵本』農文協.

農文協のつくってあそぼうシリーズはすばらしいです。茶の起源や歴史、種類などが、わかりやすくまとめられています。蒸し製煎茶のほかにも、釜炒り茶、包種茶、紅茶の作り方も載っています。

天から香水をまいたような高貴な香り!柑橘の花の香りをモイストポプリで閉じ込める

マジメかつシュール。「ふじのくに地球環境史ミュージアム」の常設展

今回の庭ノートは、静岡市駿河区にある「ふじのくに地球環境史ミュージアム(Museum of Natural and Environmental History, Shizuoka)」についてです。地球環境史(人と自然の関係の歴史)から未来の豊かさとは何かを考えるミュージアムです。

ふじのくに地球環境史ミュージアム

2017年3月5日の庭ノートの記事で、企画展「静岡のチョウ 世界のチョウ」を紹介しましたが、このミュージアムは常設展もとても興味深いです。

最近静岡県で増えているチョウについて。企画展「静岡のチョウ 世界のチョウ」

展示物のボリュームはそんなに多くありませんが、どれもはっとさせられる切り口です。解説文やラベルは控えめになっていて、標本や資料をじっくり見て、考えることを楽しむミュージアムになっています。

私が気に入ったのは「骨の教室」です。脊椎動物たちの教室なのですが、この座席表、すごい生徒です。

骨の教室の座席表の写真

骨の教室の座席表

着席している様子がシュールすぎます。ヒトも動物であることを思い知らされます。

骨の教室の生徒たちの写真

骨の教室の生徒たち

廃校になった県立高校をリノベーションした博物館なので、外観は学校そのまま、内観も学校風味です。

静岡県の海を紹介している展示室には、チリメンモンスターの標本もあります。

ちりめんじゃこに混入した海洋生物の写真

ちりめんじゃこに混入した海洋生物

チリメンモンスターとは、イワシの稚魚の加工物である「しらす干し」や「ちりめんじゃこ」の中に混入した海洋生物のことです。混入した海洋生物を探す活動は昔から行われていましたが、「きしわだ自然友の会のメンバー」がこれを「チリメンモンスター(チリモン)」と命名したそうです。ポケモンみたいに熱狂的なファンがいます。

疲れたら、図鑑カフェで休憩できます。自然史や地球環境史にまつわる図鑑があり、お茶を飲みながら図鑑を読むことができます。

図鑑カフェの写真

図鑑カフェ

展示の最後には、環境リスクを知り、そのうえで、豊かな暮らしとは何かを考えるコーナーがあります。

その中に、こんな問題提起がありました。

どこに住めば豊かに暮らせる?

どこに住めば豊かに暮らせる?

「どこに住めば豊かに暮らせる?」

「細長い国土を持つ日本は、地域ごとに特色ある地形と四季が育む豊かな自然があります。一方、人口が集中する都会は、豊富な情報や整備された環境があります。豊かに暮らすにはどちらに住むのが良いのでしょうか?」

田舎と都会、どちらにもそれぞれのよさがあり、私はどちらの恩恵も享受したいです。個人的には、田舎と都会の間に住めば豊かに暮らせるのではないかと思っています。私のこのホームページのテーマも、「富士山麓の静岡県富士宮市を拠点に、田舎と都会の間で自然との接点をさがす」です。

静岡県は、標高3000メートルを超える日本一高い山・富士山と、水深2400メートル以上の日本一深い湾・駿河湾を有しています。この高低差が多種多様な自然環境を生み出しています。自然資源が豊富で、四季の移り変わりを肌で感じることができ、環境と調和のとれた生活をすぐ実践に移すことができます。

※ちなみに、日本一高低差の大きい市は、静岡県富士宮市で、その高低差は3741メートルです。

一方で、新幹線で一時間の場所に、中途半端な都会ではなく世界有数の都市である東京があり、質の高い文化や情報を享受できます。さらにそこから世界中の街へ行くことができます。

自然災害のリスクはありますが、それは日本中世界中、どこにいても起こり得ることです。

というわけで、田舎と都会の間の静岡県は、バランスがとれていて、豊かに暮らすにはなかなかおすすめな場所です。また、静岡県は民力や気候の面でも平均的な日本の像に最も近い県とされていて、そのような意味でも住みやすいのではないかと思います。

しかし、だれもがさまざまな事情を抱えていて、どこに住むかを選べる人は少ないのではないかと思います。今住んでいる場所での生活を、どのように自然と調和のとれたものに変えていくか、豊かと思えるものに変えていくか、ということが重要になってくるのでしょうか。

おすすめの本

日下部 敬之, きしわだ自然資料館, きしわだ自然友の会(2009)『チリメンモンスターをさがせ!』 偕成社.

ちりめんじゃこの写真からチリモンをさがす、子ども向けの本ですが、大人も楽しめます。ちりめんじゃこを食べるとき、タコやイカの赤ちゃんをさがしたことを思い出します。海洋生物の多様性を知るための楽しい導入になります。

最近静岡県で増えているチョウについて。企画展「静岡のチョウ 世界のチョウ」

ウラシマソウ(浦島草):晩春の庭に咲く超個性派の性転換植物

今回の庭ノートは、晩春に我が家の庭に咲く超個性派植物、ウラシマソウ(浦島草)についてです。独特な佇まいでその場を異空間にしてしまう上、性転換植物でもあるという、なんとも魅力的な植物です。

我が家の庭に咲く花は、季節によってキャラクターが全然違います。大まかにいうと、春に咲く花はふわっとした感じ、夏に咲く花ははつらつとした感じ、秋に咲く花はしっとりとした感じ、冬に咲く花はきりっとした感じです。

春に咲く花は全体としてふわっとした感じなのですが、時期によってさらにキャラクターを細分化することができます。

極めて個人的な印象になりますが、春前半に我が家の庭に咲く花は、素人ウケする優等生です。例えば、桃、モクレン、レンギョウ、桜、菜の花、アネモネ、ハナニラ、スイセン、ムスカリ、チューリップ、パンジー、ビオラ、など。

そして、これまた極めて個人的な印象になりますが、春後半に我が家に咲く花は、玄人ウケする個性派です。

例えば、クマガイソウ。

クマガイソウの写真

クマガイソウ

例えば、エビネ。

エビネの写真

エビネ

例えば、ホウチャクソウ。

ホウチャクソウの写真

ホウチャクソウ

その中でも、ひときわ異彩を放っている超個性派がウラシマソウです。

ウラシマソウの写真

ウラシマソウ

ウラシマソウ(Arisaema urashima)は、日本原産で、サトイモ科テンナンショウ属の多年草です。肉穂花序(にくすいかじょ)の先端の付属体が細く糸状に伸びていて、その姿を、浦島太郎の釣り竿の釣り糸に見たてて、この和名がついたといわれています。

英名は「コブラ・リリー・ウラシマ(cobra lily Urashima)」です。

地下にはサトイモに似た球根があり、春になると芽を伸ばして、傘のような大きな葉を広げます。そして、仏炎苞(ぶつえんほう)といわれる黒褐色の苞を開きます。

静岡県にある私の庭では、4月下旬から5月上旬にかけて開花します。耐陰性が強く、乾燥を嫌うため、木の陰など、少し薄暗いところに生えています。

子どもの頃、庭で遊んでいて、偶然このウラシマソウを見つけてしまったときの驚きといったらありません。出会ってはいけないものに出会ってしまったというか、見てはいけないものを見てしまったというか、何か異質なものが存在していてそこだけ時空がゆがむというか。

しかも、こんな集団に出くわしてしまったら「うわぁぁぁどーしよー」って感じです。

ウラシマソウの群生の写真

ウラシマソウの群生

しかもこのウラシマソウ、性転換するんです!

ウラシマソウなどのテンナンショウ属の植物は、一般に性転換することで知られています。性転換は、成長や栄養の状態によって起こり、小型の個体は雄性となり、大型の個体は雄性から雌性に転換していきます。

ウラシマソウの雌性と雄性の写真

ウラシマソウの雌性と雄性

黒褐色の仏炎苞は一見花のように見えますが、本来の花はこの仏炎苞の中の付属体の下についています。

ウラシマソウに中を見せてもらいました。

ウラシマソウの雄花と雌花の写真

ウラシマソウの雄花と雌花

上の写真の左が雄性、右が雌性です。小型の個体では雄性となって、仏炎苞の内部の内穂花序に雄花群を形成します。大型の個体では雌性となって、肉穂花序に雌花群を形成します。

雄花から雌花への花粉の受粉はキノコバエの仲間によって行われます。キノコバエは、雄性の仏炎苞の開口部から進入し、雄花群の花粉を体につけて、仏炎苞の下にある隙間から脱出します。

しかし、雌性の仏炎苞には脱出できる隙間がありません。開口部から進入したキノコバエは、出口を探して雌花群をうろついている間に受粉させられ、脱出できずに死んでしまうこともあるそうです。

ウラシマソウの付属体が細長く糸状に伸びたもの(浦島太郎の釣り竿の釣り糸)については、なぜこのような構造になっているのか不明だそうですが、一説によると、先端が地面や草などに接していて、これをたどって虫が仏炎苞の中に入ってくるのではないかといわれています。

だとしたら、これは本当に釣り糸だということになります!