私は蝶が大好きで、バタフライガーデンを庭づくりの柱の一つにしています。
蝶が集まる庭を作るには、大きく二つのアプローチがあります。
- 成虫の食物である蜜源植物を植える
- 幼虫の食物である食草を植える
今回は、2の食草、特にアゲハチョウ科の食草についてです。
食草とは蝶が主に幼虫期に餌として食べる植物のことです。蝶の成虫が好きな蜜の多い花を植えれば蝶はやってきますが、庭に居ついてくれるようにするには、蝶が産卵し、孵化した幼虫が食べる植物を植える必要があります。
蝶は卵→幼虫→蛹→蝶と完全変態をする虫です。幼虫とはイモムシのことなので、イモムシが嫌いな人は、食草を植えるというアプローチは難しいかもしれません。しかし、蜜源植物よりも来訪が多く、うまくいけば自分の庭で蝶の一生がめぐるようになります。
蝶の幼虫は、種類によって食べる食草が決まっています。例えば、アゲハ(ナミアゲハ)はミカン、サンショウ、カラタチなど、柑橘類の葉だけを食べますし、キアゲハはパセリ、ニンジン、ミツバなど、セリ科の葉だけを食べます。
私の庭には柑橘類の木があり、成虫が好む花も植えてあるので、春から秋まで、いつもアゲハチョウが舞っています。
日本産アゲハチョウ科21種のうち、私の庭がある静岡に生息しているのは12種です。アゲハチョウ科の幼虫はミカン科の植物を食べるものが多いですが、食草が異なるものもいます。
静岡に生息するアゲハチョウ科の食草
- アゲハ(ナミアゲハ):ミカン科
- オナガアゲハ:ミカン科
- クロアゲハ:ミカン科
- モンキアゲハ:ミカン科
- ナガサキアゲハ:ミカン科
- カラスアゲハ:ミカン科
- ミヤマカラスアゲハ:ミカン科
- ジャコウアゲハ:ウマノスズクサ類
- キアゲハ:セリ科
- アオスジアゲハ:クスノキ科
- ギフチョウ:カンアオイ類
- ウスバシロチョウ:キケマン類
1.アゲハ、2.オナガアゲハ、3.クロアゲハ、4.モンキアゲハ、5.ナガサキアゲハ、6.カラスアゲハ、7.ミヤマカラスアゲハ
例えば、こんな蝶や
こんな蝶や
こんな蝶を呼ぶためには、カラタチ、ユズ、ハッサク、アマナツ、ウンシュウミカン、サンショウなどのミカン科の植物を植えると、産卵に来てくれます。
私はミカン科の果実は食べますが、葉は食べませんので、幼虫と食べるものがかぶっていないところも気に入っています。
ミカン科の植物は、一本植えておくと、果実が食べられ、蝶の舞が見られ、幼虫から自然の不思議を学べ、花の香りを楽しめ、常緑で冬も明るい気持ちになれ、いいことづくめです。
8. ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハの幼虫の食草はウマノスズクサ類です。ウマノスズクサは意識的に育てているわけではありませんが、庭でジャコウアゲハをよく見かけるので、もしかしたら庭のどこかに生えているのかもしれません。
実は、ジャコウアゲハが食べるウマノスズクサ類は毒を含み、ジャコウアゲハは幼虫時代にその葉を食べることによって、体内に毒を蓄積します。この毒は成虫になっても体内に残るため、ジャコウアゲハを食べた捕食者は中毒をおこし、食べたものを吐き出してしまいます。一度ジャコウアゲハを捕食して中毒を経験した者は、二度とジャコウアゲハを捕食しなくなるわけです。
このジャコウアゲハに似ることによって身を守っているのが、オナガアゲハ、クロアゲハ、蛾のアゲハモドキです。このように体内に毒を持っている種類のまねをして自分の身を守ることをベイツ型擬態と呼びます。
9. キアゲハ
キアゲハの成虫はアゲハ(ナミアゲハ)とよく似たルックスですが、模様や色合いが微妙に違い、幼虫のルックスや食草に関しては全く違います。
キアゲハを呼ぶには、パセリ、ニンジン、ミツバなどのセリ科の植物を植えます。
私は、パセリ、イタリアンパセリ、ミツバ、アシタバ、フェンネル、コリアンダー、セルフィーユ、スープセロリなどをまとめて植え、その場所を「セリ科の庭」と呼んでいます。セリ科の植物を混植すると、交雑して香りや風味が薄くなり、ハーブとしてはイマイチになるとされていますが、管理のしやすさを優先して混植しています。
セリ科の葉は私も食べるので、キアゲハの幼虫と食べるものがかぶってしまっています。ライバルでもあるため、キアゲハに対してはミカン科の葉を食べる蝶ほどの愛着を持てません。
しかし、キアゲハの食草であるパセリ、ニンジン、ミツバなどは、他の食草に比べて育てやすいので、一番呼びやすいアゲハチョウかもしれません。
10.アオスジアゲハ
クスノキ科が食草です。私の庭にクスノキはありませんが、近くに雑木林があるため、そこで生まれたと思われる蝶がよく私の庭に遊びに来ます。
11.ギフチョウ
早春に現れる春の女神と呼ばれる蝶です。残念ながら幼虫も成虫も見たことがありません。食草はカンアオイ類です。ちょうどカタクリの花が咲く頃に成虫が現れるため、庭にカタクリを植えて、吸蜜に来るのを待っています。
12.ウスバシロチョウ
残念ながらウスバシロチョウも見たことがありません。食草のキケマン類は庭にも生えているので、もしかしたら今後目撃できるかもしれません。アゲハチョウ科とは思えない古風な蝶です。幼虫は石や枯葉の上で日向ぼっこするそうです!
参考文献
バタフライガーデンの作り方についての本は日本ではほとんどありませんが、日本でおそらく唯一の、そして最高の本が、私が尊敬する昆虫写真家、海野和男さんの『蝶が来る庭ーバタフライガーデンのすすめ』と『花と蝶を楽しむバタフライガーデン入門』です。
どのような花を植えるとどのような蝶が来るか、春、初夏、夏、秋と、季節ごとに紹介されている図鑑式の本です。
各植物のページに、チョウを呼ぶ力を「集客力」として5段階の表示があって、とても便利で楽しい作りになっています。
どの写真も本当に美しく、蝶と花の写真集としても楽しめます。
幼虫の食草ではなく、蝶の吸蜜源植物である花の紹介が中心ですので、イモムシはちょっぴり苦手だけど庭にたくさん蝶を呼びたいという方にも最高の本だと思います。
海野和男(1999)『花と蝶を楽しむバタフライガーデン入門』農文協
蝶の一生、蝶の種類、蜜源植物、食草など、とてもわかりやすいのに非常に細かい話まで載っています。植栽プランも紹介されていて、都会のベランダから広大な庭まで、自分の環境に合ったバタフライガーデン作りを模索できます。
森上信夫・林将之(2007)『昆虫の食草・食樹ハンドブック』文一総合出版
最終更新日 2021年7月21日